Motogpでのカーボンディスクブレーキの進化について


今年の9月10日に行われたサンマリノGPでMotogpのブレーキシステムに新たな革命がおこりました。

今年の9月10日に行われたサンマリノGP決勝でレインコンディションにも関わらず、カーボンディスクを使用したブレーキシステムでマルク・マルケス 選手が優勝しました。

GP500の頃からレインコンディションではスチールディスクのブレーキを使用するのが当たり前でした。

何故なら、カーボンディスクブレーキで良好な摩擦性能を確保するためには、250℃程の作動温度に達する必要があると言われていますが、最近までこの値は完全にウェットのコンディションでは現実味のない数値でした。 

しかし近年、バイクの馬力向上やタイヤの改良、そしてカーボンディスクの進化を経て、ウェットコンディションでもカーボンディスクは十分に性能を発揮すできるようになりました。

2017年シーズンからウェットコンディションでも使われるようになった、カーボンディスクについて考えてみたいと思います。





バイクの部品に良く使われるカーボンですが、色々な種類があります。

カーボンではありませんが、ガラス繊維などの繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料のFRP(Fiber-Reinforced Plastics)があります。
ガラス繊維を炭素繊維(カーボン)に変えるとCFRPになります。
そしてCFRPを高温で炭化させた炭化炭素繊維(Carbon-Carbon)通称 CC と呼ばれる素材や、CCコンポジットと呼ばれる「炭素繊維強化炭素複合材料」がバイクのカーボンディスクに使用されています。

カーボンディスクを使用したブレーキの利点は、スチール製の物に比べて格段に軽く、熱にも強いという利点があります。
スチールディスクはカーボンよりも重い材料のため、どうしてもバイクの動的挙動に好ましくない影響が発生してしまいます。 

現在のカーボンディスクの重さは、スチール製ディスクの50~60%で1500℃以上の高温にも耐える優れた熱的特性を実現しており、基本的には耐摩耗性にも優れ、寿命はスチール製ディスクの2~3倍あるとも言われています。

Motogpマシンが使用するカーボンディスクの重さは、同サイズのスチール製ディスクの重さの約1/2の重さです。
ブレーキユニット全体では、スチール製ディスクのものに比べておよそ2kg軽い事になります。



カーボンディスクを使用すれば、バネ下重量の軽量化になりジャイロ効果の低減にもつながります。
走行中に高速で回転するフロントホイールに生じる慣性マス(回転によって生じる重さ=回転の止まりにくさ)は、静止時ではわずか100gの重さの違いでも、回転時には何十倍にも増幅するため、ハンドリングやマシンのコントロール性に多大な影響を与えることになります。
このため、ブレーキディスクは熱に強く、かつ軽ければ軽いほど理想的なのです。
そして、軽いカーボンディスクを使用することで、ホイールがアスファルトをより確実に捉えることができるようになるため、サスペンションの挙動が向上します。
これが結果的に乗り心地の向上や、より効率的な地面への力の伝達につながります。 



また、スチールディスクとカーボンディスクでは、摩擦発生のメカニズムが少し異なります。
スチール製ディスクの場合、回転するディスクをパッドで挟むことによって生じる摩擦によって制動力を実現するのに対して、カーボンディスクの場合は、ディスクと接触したパッドから発生する微粉末がディスク表面に付着し、被膜が形成されます。
これによって、同材質の摩擦でも焼きつきなどを起こさず、適当な摩擦抵抗を生むのがカーボンディスクの特徴です。

しかし、カーボンディスクのデメリットとして、温度管理が非常にシビアな点が挙げられます。
適温以下に冷えている状態では十分な制動力を発生できないのです。
したがって、ブレーキが冷えやすいレインコンディションや風の強いレース、あるいはブレーキに なかなか熱が入らない低速コースなどでは、ドライコンディションでも、ブレーキディスクにカバーを付けるなどの対策が求められます。

しかし近年、バイクのパワーの増加やタイヤの改良により、カーボンディスクも進化してきました。
 bremboによりますと、雨天時におけるカーボンディスクの性能がスチールディスクに事実上追いついたことが証明された最初のレースは、今から2年前の2015年に開催されたサンマリノGPだったそうです。

その日、雨が降り始めた為すべてのMotogpライダーはピットに入り、スチールディスク搭載のウェット仕様にセッティングしたバイクに交換を始めました。 
しかし、たった1人 ブラッドリー・スミス(当時はヤマハTech3)だけはマシン交換を行わず走り続けました。
気温が低下したにもかかわらず、彼のカーボンディスクは全く影響を受けることなく、2着でレースを終えたのです。

カーボンディスクでウェット路面を走り続けるスミス
また、別のレースで マルク・マルケスは、直前まで降り続いた豪雨で、びしょ濡れになったコースでもローストリップカーボンディスクを使用するメリットについて語り、それを使用することを希望しました。 

結局そのレースは、マルケスは転倒してしまうのですが、これまでにないファステストラップをマークし、転倒後マルケスは後ろから追い上げ、11着でフィニッシュしました。
そのレース後、ブレンボの技術者たちはディスクとテレメトリーの分析を行うとともにライダーのコメントを聞き、ウェットコンディションでもカーボンディスクが問題がないことを確認しました。 


そして、今年の9月10日に行われたサンマリノGP決勝で本格的にウェットコンディションでも、カーボンディスクブレーキが使われることになります。
優勝したマルケスだけがカーボンディスクを使用したイメージが強いですが、実はこの日マルケス以外にもカーボンディスクを使用したライダーは他にもおり、私が知っているだけでも(他にも使用したライダーがいるかもしれません)、アレックス・リンス、ブラッドリー・スミス、ジャック・ミラー、マーベリック・ビニャーレスがカーボンディスクでレースしています。






サンマリノGPの決勝レース結果は、
1位 マルク・マルケス(カーボンディスク)
2位 ダニロ・ペトルッチ(スチールディスク)
3位 アンドレア・ドヴィジオーゾ(スチールディスク)
という結果になり、マルケスがウェットコンディションのレースでもカーボンディスクは使えることを証明してみせました。
そして、サンマリノGPの約1か月後にウェットコンディションで行われた日本GPでは、1位~9位の選手がカーボンディスクを使用し、ポイントを獲得した15人のライダーのうち、13人がカーボンディスクを装着していました。

1988年のWGPでAPレーシングによって初めて実戦投入されたカーボンディスクブレーキですが、温度管理の難しさから、つい先日までウェットレースで利用価値のないものと見向きもされていなかったカーボンディスクが、わずか1カ月の間でトップクラスライダーのスタンダードに代わったなんて面白い話だと思いませんか?

関係筋の人に話を聞く機会があったのですが、カーボンローターの材質自体は実は何年も変わっていないそうです。
カーボンディスクへの先入観から今までレインでの使用をしてなかっただけと言うお話を伺う事が出来ました。
2017年はカーボンディスクブレーキの歴史の1ページが見れた年だと私は思っています。

公道では温度域が低い事や、製造コストの問題などありますが、そう遠くない将来に市販車でもカーボンディスクの時代が訪れるかもしれませんね。

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