構造と進化を知って上手くなろう グリップ力って何だ?編5

バイクのタイヤのグリップに付いて考える時、学生時代の理科で習った摩擦力の事とゴッチャになってしまいがちですが、この記事を読むうえで個体同士のグリップ力の事は少し頭から切り離してみるとイメージしやすいかもしれません。




オンロードタイヤのグリップ力は、粘着摩擦とヒステリシス摩擦とによって得られています。それぞれの発生のメカニズムについては、「グリップ力って何だ?編」で書いてきましたが固い話になってしまいました・・・今回は実際に私たちがバイクに乗った時に気になるグリップ力の性質をメカニズムから考えていきたいと思います。



ゴムのグリップ力というのは、バイクを乗りこなす上において、本当に願ってもない性質を持っているものなのです。
「タイヤには、完全にグリップしているよりは、ほんの少し滑ったほうがグリップが良いという性質がある」とグリップ力って何だ?編2の終わりの方に書きました。
理科で習った個体同士の摩擦だと、動き出す寸前の静摩擦力が最大で、動き出した時の動摩擦力はそれより小さくなるという性質があります。
そして動き出してしまえば速度にかかわらず動摩擦力は一定です。
個体の表面の細かい凹凸が噛み合う事で摩擦力が発生し、動き出す寸前までその噛み合いが保たれていますが、動き出すと噛み合い部分が壊れて摩擦力が小さくなってしまうのです。



もし、タイヤがプラスチックか何かでできていて、グリップの性質がこうしたものだとしたら、たまったもんじゃないですね!
タイヤが滑った時、急にグリップ力が小さくなり、滑りを感じた瞬間いきなり転倒することになるでしょう。
たとえ転倒を免れたとしても、滑りの程度にかかわらずグリップは同じですからスライドコントロールも上手くできないはずです。
しかし、これがゴムの場合だと、スライドを感じながらグリップ力を生かしきることができます。
こうしたバイクにとって好都合な性質は、粘着摩擦ヒステリシス摩擦のメカニズムを考えると明らかになります。
粘着摩擦とは、接地面でゴムが引き伸ばされることによって生じる路面に吸い付く力ですから、滑ることでゴムの運動が促進されて粘着摩擦力は大きくなります。
また、滑りすぎた場合ゴムと路面の分子が引き合おうとするのが阻害され、摩擦力は小さくなります。
一方ヒステリシス摩擦も、ゴムが振動することで生じるので少々滑っていた方が大きくなります。
但し滑りすぎると、ただ滑るだけで振動させられなくなるので、摩擦が小さくなってしまいます。
こうしたグリップ発生のメカニズムのおかげでグリップのピークを越しても、いきなり完全にロックしたりスピンする事が無いのです。
願っても無い性質は実はこの他にもあります。
それは加重との関係なのですが、また次回のブログで書こうと思います。

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